胃食道逆流症の対応

I.胃食道逆流症とは

胃食道逆流症とは胃に入ったミルクや食事が、 食道に逆流してさまざまな症状をおこす病気です。 無症状で逆流するだけであれば胃食道逆流現象といい、新生児・乳児ではよく認められる生理的なものです。 主な症状は嘔吐で、 年齢とともに軽快します。 しかし、 嘔吐の回数が多く体重が増えない場合や、 肺炎や無呼吸発作を繰り返す場合は、 胃食道逆流症が疑われるため以下のような検査が必要です。 一方、 重症心身障害児や外科手術をした後におこる胃食道逆流症は治りにくいため適切な治療を行います。

II.検 査

胃食道逆流症の検査には、上部消化管造影、食道pHモニタリング、超音波検査、シンチグラフィーがあります。
合併症である逆流性食道炎の診断には食道内視鏡検査と生検が必要です。
また、食道機能の評価には、食道内圧測定検査が有用です。
これら複数の検査法を組み合わせて、胃食道逆流症の診断をします1)。

1.上部消化管造影検査
食道と胃の形、 造影剤の流れ具合や逆流を確認する事ができるため、 必須の検査です。
1) まず、 口からミルクが飲めるお子さんは、 ミルクで薄めた造影剤を哺乳瓶で通常哺乳量の1/2~1/3飲ませて、 嚥下に問題がないか評価します。
2) 次に、 鼻から細くやわらかいチューブを食道内に入れて、 造影剤を少量ずつ注入します。 食道や食道と胃の境を観察します。 食道と胃の入り口の角度が90度以上あると逆流しやすくなります。
3) 胃の中に十分造影剤が注入されたら、 空気を注入して胃を拡張させチューブを抜きます。 胃の向きが背骨に対して直角であると、 胃軸捻転といい逆流しやすくなります。
4) 十二指腸から空腸への流れを確認し、 体位を変換しながら約5分間断続的に観察します。 食道へ逆流したら、 その頻度や程度を評価します(図1)。

2.食道pHモニタリング
微小電極を用いて食道内のpHを電子メモリ内蔵の携帯式小型機器に持続的に記録し、 pHの低下を胃酸の逆流とし評価する方法です。
1) 先端に電極のついた細いチューブ状を鼻から食道内に留置します。 電極の位置はレントゲンで確認します。
2) pHモニターのチューブを留置した状態で普通どおりの生活を行い、 pHを24時間測定します。 ミルクや食事、 体位交換、 睡眠、 啼泣、 覚醒などの状態に加え、 嘔吐や無呼吸発作があればその時間も記録します。
3) 24時間後に電極を抜いて、 測定したpHを解析します。 pH4。0未満の時間が24時間のうち4%以上あると胃食道逆流症と診断できますが、 症状とpHの変化を総合的に判断します(図2)。

3.超音波検査
胃内にミルクや生理食塩水などを投与し、超音波で食道内への逆流を観察します。 非侵襲的な方法ですが、 診断基準が確立しておらず、 胃食道逆流症の検査としてはあまり普及していません。

4.シンチグラフィー
放射性物質混合したミルクを摂取後、 放射性物質を含まないミルクを摂取させ、 食道内の放射性物質を洗い流します。 約1時間の検査中、 食道部分に放射性物質がカウントされれば逆流と診断します。 肺野内にカウントされれば誤嚥を証明する事ができます。

5.食道内視鏡検査・生検
胃食道逆流症による逆流性食道炎の診断に有用です。 炎症の範囲や重症度を評価する事ができます。 ただし、 小児の評価基準はいまだ確立されておらず、 検査には全身麻酔が必要なため、 あまり行なわれていません。

6.食道内圧測定検査
逆流防止に重要な食道内圧を測定し、胃食道逆流症を運動機能の面から評価することができます。

III.治療

胃食道逆流症の治療は第1~4段階の内科治療と第5段階の外科治療にわかれています。 乳児期に発症するほとんどの胃食道逆流症は年齢とともに軽快するため、 内科治療が中心となります。 内科治療が無効な場合は外科治療が考慮されます。 

1.第1段階: 家族への説明および生活指導
体重増加不良や吐血などの合併症がなく溢乳のみの場合は、成長とともに1歳頃までに症状が軽快する可能性が高いことを説明し、家族の不安を取り除きます。 日常生活指導として、 乳児では授乳後のおくび(げっぷ)やだっこの姿勢の保持、 排便・排ガスを促します。 年長児では便通を整え、 運動を行い、 カフェイン、 チョコレート、 香辛料を避けることが有効とされています。

2.第2段階: 授乳
少量頻回授乳をすすめます。
一日に必要なミルクの量を8~12回に分けて投与します。 人工乳の場合は、 増粘ミルクやアレルギー疾患用ミルクに変更すると、 嘔吐頻度を低下させることがあります。 増粘ミルクは普段のミルクに市販の粉末タイプの増粘剤(トロミアップA、 トロミクリア、 トロメリン、 スルーソフトSなど)を加えて代用します。ミルクアレルギーを疑われる症例はアレルギー検索を行い、 アレルギー疾患用ミルクを投与します。 どちらのミルクも約2週間投与し、 症状が改善すれば継続します。

3.第3段階: 薬物療法
酸分泌抑制剤は逆流性食道炎の治療として有効です。消化管運動改善薬の制吐剤は副作用がでやすいので小児での投与には注意が必要です。

4.第4段階: 体位療法
ミルク後に坐位や、 だっこの姿勢をなるべく長くするようにします。仰向けの場合は頭を高くし、横向きの場合は右側を下にします。 腹這いにする場合は頭を高くして、 嘔吐して窒息しないように注意して観察します。

5.第5段階: 手術による治療
内科治療にもかかわらず胃食道逆流症による症状が続く場合に外科治療が検討されます。
とくに、発育障害、慢性貧血、反復性肺炎のように生命を脅かす症状がある場合、または内科治療に抵抗する重症心身障害児などが外科治療の対象となります。手術法は逆流防止手術の噴門形成術が一般的です。手術が必要な胃食道逆流症を合併している患者さんは胃管栄養を行っていることが多いため、 胃瘻の手術と同時に行うことがあります。