乳幼児の経腸栄養剤について

乳児、とくに新生児期の基本的な経腸栄養剤は母乳または人工乳がもっとも理想的です。とくに母乳はIgAやトランスフェリンなどの感染防御因子が含まれており、栄養バランス、消化吸収においても非常に優れた天然の栄養剤です。
しかし、様々な病態のため母乳や人工乳が与えられない場合は特別な経腸栄養剤を用います。
母乳や人工乳を与えられた場合でも月齢がすすみ離乳期に入ると消化酵素の分泌が豊富となり消化可能な食品の種類が増えてきます。一般的に離乳期以降は経腸栄養剤も成人と同様のものに変更可能となってきます。以下に経腸栄養剤の分類を示し、それぞれ説明します。

I.経腸栄養剤についての説明

経腸栄養剤は 大きくは2つに分けられ、人工濃厚流動食と自然食品流動食があります。このうち人工濃厚流動食は消化態栄養剤、半消化態栄養剤に分けられます(表1)。
消化態栄養剤は更に成分栄養剤とペプチド栄養剤(狭義の消化態栄養剤)に分けられます。これらはタンパク質をどの程度消化したものかによる違いがあります。

II.人工濃厚流動食

1.成分栄養剤
成分栄養剤は 科学的に組成の明らかなものだけで構成されています。
タンパク成分はアミノ酸まで分解してあり、腸管内での消化は不要です。食物繊維を含まず無残渣で、すべてが上部消化管で吸収され得ます。
消化吸収能の低下している状態、例えば壊死性腸炎や短腸症候群などに用いられます。エレンタール、エレンタールPなどがあり、このうちエレンタールPが乳幼児用に開発されたものです。成分栄養剤は浸透圧が高いため投与初期は下痢を起こし易く注意が必要です。
脂肪が少ないため必須脂肪酸欠乏症をきたす恐れがあり、長期投与の場合は脂肪乳化剤を補給しなければなりません。

2.ペプチド栄養剤
ペプチド栄養 剤とは狭義の消化態栄養剤であり、タンパク成分がアミノ酸までか、アミノ酸がいくつか連なったペプチドの形まで分解されており、消化はほとんど不要で良く吸収されます。ツインラインとペプチーノがあります。
ツインラインは脂肪含有量が成分栄養剤より多く、長期使用でも必須脂肪酸欠乏に陥ることがありません。
ペプチーノは脂肪を含まず成分栄養剤同様長期投与時は脂肪乳化剤の補給が必要となります。
ペプチド栄養剤は消化吸収能の低下している場合や消化管術後、短腸症候群、炎症性腸疾患などに用いられます。これも浸透圧が高いため下痢を起こし易いことに注意が必要です。

3.半消化態栄養剤
半消化態栄養 剤は自然食品を人工的にある程度消化した栄養剤です。
タンパク成分がポリペプチドかタンパク質の状態で含まれています。消化態にまで分解されていないの で、消化吸収能があまり障害されていない場合に用いられます。浸透圧が比較的低く下痢は起こしにくいとされています。
また、味もよく経口摂取にも適しています。
医薬品として はラコール、エンシュア、ハーモニックなどがあり(表)他にも処方箋なしで購入可能な食品扱いのものが多数あります。
小児用に開発された栄養剤としてはリソースジュニアがあります。エネルギー量と含有窒素量の割合が小児に適しており、少量でも高カロリー摂取が可能です。
半消化態栄養剤は成人に対し繁用されていますが、乳児では消化吸収能が正常であれば人工乳の方が適しています。
また、特殊な栄養剤として肝機能障害、腎機能障害、糖尿病、呼吸器障害に対しての製剤がありますが、NICUで使用することはありません。

4.自然食品流動食
自然食品流動食は、天然食品を素材としてつくられ、バランスが良いのが特徴ですが、利用するには消化管吸収の機能が正常である必要があります。NICU入院中の乳児に対しては母乳や人工乳を投与するためこれらを使用することはありません。