腸瘻の管理について
Ⅰ.腸瘻とは
お腹の中にあり体外とは隔絶されている小腸の一部を,皮膚を通して体外とつなぐことを言います。目的により2種類の腸瘻があります。
1.栄養剤の注入用:チューブで体外と小腸をつなぐもの(図1)
口からミルクや食事を摂れない病気に,直接腸に栄養剤を注入するもの。
2.便や腸液の排泄用:直接、小腸を体表に出すもの(図2)
1)大腸の働きが正常でない場合の排便目的
(例:全結腸型ヒルシュスプルング病)
2)緊急避難的に腸菅の安静を保つ目的
胎便栓症候群による腸閉塞で胎便排出不十分な場合
消化管(小腸)穿孔による腹膜炎で、炎症が強く穿孔部を閉鎖できない場合
今回は栄養管理が目的なので栄養剤の注入について記します。
Ⅱ.経管栄養のための腸瘻
様々な理由によって十分な経口摂取が不可能な患児に、腸瘻を通じて母乳,ミルクや人工的に調整された経腸栄養剤を直接腸管内に投与し、栄養状態を改善させることにより免疫や治癒能力を高め成長を促します。Ⅲ.どんな時に腸瘻が必要か?
経口摂取が不可能あるいは困難で、かつ胃瘻を利用できないまたは造設したくない場合に必要です。例えば:
1.経口摂取が全く不可能
大手術の術後
高度の脳性麻痺・嚥下力の喪失
2.十分な経口摂取が不可能
胃食道逆流現象(GER)
クローン病
悪性腫瘍の化学療法中
Ⅳ.腸瘻の種類
1.経鼻的腸瘻鼻孔から食道→胃→十二指腸を経て空腸に栄養チューブを挿入します。(図3)
2.経胃瘻的十二指腸(空腸)瘻
胃瘻を通して栄養チューブを十二指腸に(時に空腸まで)挿入します。(図4)
3.空腸瘻
手術により、腹腔外から経皮的に空腸内に栄養チューブを挿入し腹壁に固定します。(図5)
術式
1) 直接瘻(Stamm式)(図6-a)
腸管をカテーテルが貫く部位が直接腹壁に開口するように造ります。
2) 間接瘻(Witzel式)(図6-b)
腸管をカテーテルが貫く部位と腹壁を貫く部位の間に一定の長さの瘻管(腸菅粘膜下トンネル)を作成します。
Ⅴ.腸瘻の管理
1.瘻孔部の管理1) 皮膚炎、肉芽形成、粘膜脱
腸液や栄養剤の漏出や固定用テープのかぶれにより挿入部周囲の皮膚炎を形成します。瘻孔部の感染や慢性刺激から肉芽を形成します。腹圧のかかり方により腸瘻孔から腸粘膜が翻転脱出します。
2) 瘻孔からの浸出液
毎日消毒,ガーゼ交換をする。浸出液がなくなればシャワー,入浴が可能で、シャワー、入浴時はお湯で瘻孔部の周囲を洗浄します。
2.カテーテルの管理
腸瘻用のカテーテルは細く,栄養剤にむらがあると詰まりやすいため、定期的な(4-6時間毎の)フラッシュが必要です。
栄養剤注入には原則的に経腸栄養用の注入ポンプを使用します。
チューブの先端で腸内細菌が増殖すると、pHが下がり栄養剤が固形化し、閉塞しやすくなります。
3.栄養剤の管理
細菌に汚染された経腸栄養剤を投与すると、下痢・発熱・腹痛などの食中毒様症状が出現することがあります。とくに空腸瘻は胃酸の殺菌作用を受けないので症状が発現しやすくなります。
粉末栄養剤は調整後12時間以内の使用が原則です。(8時間を過ぎると急速に細菌が増殖してきます。)最近はパック式液体経腸栄養剤が市販されており、十分な滅菌により、粉末よりも安全性が高くなっています。
Ⅵ.注入ポンプの使用
小児は注入速度が遅いためポンプの使用が不可欠です。腸瘻からの栄養剤投与は、開始時少量・低濃度・低速度で始め、徐々に量・速度を増やしていきます。速度が速いと下痢を来しやすくなります。Ⅶ.チューブ(カテーテル)の入れ替え
間接瘻(Witzel式)では入れ替えは工夫が必要です。レントゲン透視下にカテーテル先端の位置を確認します。腸管外にカテーテルが出ているのに気づかないで栄養剤を投与すると、栄養剤が腸管外に漏れて腹膜炎を発生します。直接瘻(Stamm式)は容易に挿入可能ですが、いずれにしても愛護的に挿入する必要があります。Ⅷ.トラブルとその対処
1.チューブ(カテーテル)の自己(事故)抜去体動で自然にチューブが抜けたり、チューブ挿入の不快感から無意識にチューブを抜去することがあります。そのまま放置すると数時間で瘻孔が閉鎖してしまいます。自己抜去に気付いたら緊急にレントゲン透視下に再挿入する必要があります。
2.自己(事故)抜去を防ぐ対策
チューブ固定時にマジック等で目印を付け,チューブの移動を確認できるようにします。また、移動し難いようにチューブは弾性テープで皮膚に固定します。
3.チューブ閉塞の対応
1)ガイドワイヤーを通したり細径注射器(1~2ml)で蒸留水を注入することにより再開通を試みます。
2)再開通しないときはカテーテルの交換を行います。カテーテル交換にはレントゲン透視下でカテーテル先端の位置確認が必要です。
4.下痢、腹満、嘔吐への対応
1) 注入速度を遅くします。
2)栄養剤を常温にします。
3) 浸透圧や食物繊維の有無を考慮し、栄養剤を変更します。
4) 治らない場合や症状が強い場合は腸瘻からの栄養剤注入を一旦中止します。
- TOPページ
- 代表挨拶
- 活動内容
- オンラインジャーナル
- 埼玉県小児在宅医療支援研究会
- 在宅支援マニュアル
- 栄養管理マニュアル
- 研究報告書
- 関連サイトリンク集
- 研究者一覧
- 事務局
- プライバシー
- 規定など
- 会員募集
- 書籍紹介
- 過去イベント・セミナー