胃瘻の管理について

Ⅰ.目 的

胃 瘻とは、皮膚と腹壁と胃の間に作成した瘻孔(トンネル)で、そこから直接食事を注入します。胃瘻造設により患児がより快適に生活でき、介護者の負担が軽減 し、見た目もすっきりしたものになることが目的です。栄養面でも粘度の高い物を与えられるようになり選択の幅が広がります。また、必要があれば生涯にわた り使うことが出来る反面、必要がなくなれば容易に閉じることが出来きます。しかし、小児ではその造設に際し全身麻酔の必要があり、外科処置に対する家族の 不安や抵抗はいまだに大きいのも事実でしょう。胃瘻の実際を解説します。

Ⅱ.適 応

嚥下障害や摂食障害があるため、消化管機能は正常でも、経口摂取が不可能または不十分な場合に、先ず経管栄養の適応となります。この状態が1ヵ 月以上の長期にわたることが予想される場合に胃瘻を考慮します。特に、経鼻胃管の挿入が難しく、そのつど透視下で行わなければならない場合や、経鼻胃管の 咽頭・喉頭への刺激により嘔吐反射を頻回に起こしたり、逆に空気を飲み込み呑気症となる場合は積極的な胃瘻の適応です。  

Ⅲ.術前検査

胃瘻を造設する前に、造設方法や同時に行ったほうが良い手術があるか検討するために必要な検査を行います。
1.上部消化管造影:この検査では、十二指腸への排泄、胃の大きさ、肋弓との位置関係、His角の鈍化、食道裂孔ヘルニア、胃食道逆流症(GERD) 腸回転異常 上腸間膜静脈症候群などの合併症の有無を調べます(図1)。
2.腹部CT検査:この検査では、胃と肝臓や横行結腸の位置関係と、腹壁の厚さを測り胃瘻のサイズを決定します。
3.24時間pHモニター:GERDの程度を判断します。
これらの検査結果から、特にGERDがある場合は、この疾患が進行性であることを考慮し、同時に噴門形成術を行うことを勧めます。胃瘻造設した後に噴門形成術をする際は胃瘻を作り直さなければならないからです。

Ⅳ.造設方法

開腹法、経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy:PEG)、腹腔鏡補助下内視鏡的胃瘻造設術(LAP-PEG)の3つの方法があります。表1に それぞれの長所・短所を示しました。術式の選択にあたっては、慢性的な栄養障害や、痙攣や筋緊張さらにステロイド剤の長期投与などで瘻孔を形成しづらいか どうか。また、胃泡の位置が側弯で肋骨弓下に深く入り込んでいないか。特に乳幼児では腹壁の固定板を1ヵ月の間装着が可能か。これらの条件を考慮して造設 方法を選択します。成人では標準術式のPEGですが、一般に小児ではPEGの合併症の頻度は高いことを認識する必要があります。  

Ⅴ.胃瘻器具の種類

胃瘻器具は、腹壁の外側の形状からボタン型とチューブ型に、胃内の形状からバルーン型とバンパー型に分けられます。チューブ型は、露出部が大きく自己抜去の危険が高 く、また、蠕動によりチューブが引き込まれると幽門を閉塞させるとの報告もあり、ボタン型のほうが管理がしやすいです。バンパー型は自己抜去しづらい反 面、交換時に痛みや圧される感じを伴います。また、潰瘍形成やバンパーが胃粘膜に埋没して抜けなくなるといった報告もあります。以上よりボタン型バルーン の胃瘻が普及しています(図2)。

Ⅵ.管 理

術直後の管理としては、痙攣・筋緊張亢進は創部の安静と瘻孔形成の障害となり、合併症発生の可能性が高くなるため薬物コントロールを充分に行います。注入は翌日から可 能で、注入量が術前と同じとなり、創傷治癒に問題がなければ退院します。初回の胃瘻交換の目安は1ヵ月後で、PEG、LAP-PEGで造設した場合はこの時点でボタン型バルーンに交換します。その後の交換は、胃瘻はチューブが太く短いため閉塞することが少なく1~2ヵ月に1回程度の交換です。交換時には必ず、交換後の排出液のpHを チェックし、確実に胃内に挿入できていることを確認し、誤挿入を防止します。使用中は時々バルーン内の水のチェックを行う必要があります。バルーンが破損 すると水が漏れ事故抜去することがあるからです。胃瘻孔は口と同じなので、清潔ケアは大切ですが、消毒の必要はありません。  

Ⅶ.合併症

最も多いトラ ブルは、カテーテル周囲の皮膚炎や肉芽の形成で、年齢が低いほど起こしやすい傾向があります。対処法は、先ずステロイド軟膏の塗布、次に硝酸銀による焼 却、最後に手術的な摘除を行います。成長に伴い胃瘻の位置が移動し肋骨などによりカテーテルが慢性的に圧迫を受ける場合は再手術も考慮します。
注入液の漏れは、胃瘻のサイズと長さの調節を行い、注入速度を遅くし、経管栄養剤の粘度を上げることで対処しますが、痙攣や筋緊張が原因の場合は薬物コントロールを優先します。
消 化器症状のうち、最も多いのが下痢です。経管栄養剤の種類・注入量・注入速度・濃度の調整を行います。逆に筋力や腸管蠕動の低下などにより便秘となること も多く、水分量の増加・植物繊維の追加で対処しますが、下剤や浣腸が必要な場合もあります。最後に胃の内容物が急速に小腸に流れこむことでおこるダンピン グ症候群があります。注入後30分位で起こる早期ダンピングは、空腸が急激に拡張することで腹痛を起こします。また、2~3時間後に起こる晩期ダンピングは、高血糖後にひどい低血糖となります。小児の場合もともと胃が小さく胃瘻のバルーンにより胃の内腔が狭くなっていることも原因と考えられます。1回の注入量を減らして注入回数を増やし、注入速度を遅くして、経管栄養剤の粘度を上げることで対処します。

Ⅷ.おわりに

胃瘻造設後の介護者からの感想は、「活動範囲が広がりQOLが改善した」、「入院回数が明らかに減った」などの良好な評価を得ており、あまり躊躇せずに積極的な導入が期待されます。