経管栄養法について

1.経管栄養(経管栄養とチューブ 栄養は同義)

口 から飲んだり食べたりすることが難しいときに、チューブを通して水分や栄養分をとることを、経管栄養といいます。経管栄養にもいろいろありますが、代表的 なものは経鼻胃管と胃ろうです。胃から食道への逆流が強い場合には、直接腸から水分や栄養分をとるために、経鼻胃管を腸までいれることもあります。短期の 経腸栄養(消化管を使って栄養や水分を取ること)の場合は経鼻チューブ、長期の場合は胃瘻・腸瘻が選択されます。
【注】チューブ は、鼻腔チューブ、鼻チューブ、胃チューブ、鼻腔カテーテル、マーゲンカテーテル、ストマックチューブなど、いろいろな呼び方があります。

経 管栄養は日常生活の一部となるため、生活リズムや睡眠リズムを考慮して計画をたてなければなりません。また、簡易に行えることが安全性の向上につながりま すし、多くの人が関与するものであるため、できるだけ一般的な方法を用います。チューブ栄養は在宅医療を行うにあたっても必要な手技の一つであり、家族に も十分に方法、効果、合併症を理解していただく必要があります。確実でかつ安全に行えるように、各施設なりのマニュアルなどを作成し施行することをお薦め します。

2.経管栄養の手順

①全身状態を観察し健康状態を把 握する。
②姿勢を整える。
③介助者は手洗いをする。
④チューブの固定の確認と固定位 置を確認する。
⑤チューブ先端が胃内にあること を確認する。
⑥注射器で吸引し胃内容を確認す る。
⑦注入する栄養剤を準備する。
⑧注入液を点滴筒(ドリップチェ ンバー)の1/3程度まで いれチューブ接続部まで満たす。
⑨鼻からチューブをたどって確認 し、接続する。
⑩クレンメを調節し注入速度を決 める。
⑪注入中の観察をする。
⑫終了後、接続部をはずし、白湯 を注入し、確実にふたをする。

3.経管栄養の適応

①経口で十分な水分・栄養摂取が できない場合
②腹部膨満が強く、胃内の余分な 空気などを除去する際

4.適応となる疾患と状態

①意識障害や呼吸障害により人工 換気中の児
②中枢神経障害による誤嚥の危険 性や逆流がある場合
③先天性・後天性の心疾患により 疲労が強い場合
④上部消化管の通過障害や奇形の ある場合
⑤口腔内疾患
⑥顔面頚部の疾患
⑦拒食を認めるとき
⑧吸啜、咀嚼、嚥下機能が不十分 (口唇口蓋裂、開口障害など)
⑨確実な投薬を行いたいとき

5.必要な物品

栄養チューブ、経腸栄養用のシリンジ、固定用のテープ、聴診器、潤滑剤 など。
年齢や体の大き さを考慮してチューブの太さを選択します。胃内チューブの種類は、塩化ビニール製がほとんどですが、一部シリコンやポリウレタン製のものもあります。現在 は可塑剤の入っていないものが主流となっています。最近の栄養チューブには造影ライン入りのものが多く、レントゲンで容易に位置確認ができるようになって います。また、輸液ルートへの経腸栄養物の誤投与を防止するために、注射器と接続できない構造のものも多くなっています。固定のテープはなるべく剥がれに くく、かぶれないようなものを選択します。
【注】チューブ の交換は周囲での細菌の繁殖を考え、週1回程度行うとよいでしょう。

6.姿勢を整える

仰臥位または半座位、座位にし、頭が後屈しすぎない体位をとります。 ベッドは30°程度に挙上し、膝をまげるとよいでしょう。

7.チューブ挿入の準備

挿入前にチューブを挿入する長さを決めます。(経鼻挿入の場合・・・耳 朶~鼻尖~剣状突起までの距離、経口挿入の場合・・・眉間~剣状突起までの距離
挿入する長さが 決まったら、その場所に油性マジックで印をつけておきます。

8.チューブを挿入する

チューブは、鼻または口から挿入します。新生児などの口呼吸が確立する 前は、経口挿入がいいでしょう。経口摂取が少しでもできる児には、経鼻挿入へと変更します。
【注】胃内にミ ルクが残っていると嘔吐の原因となるため、チューブの挿入は空腹時に行います。
必要に応じて、チューブの先端に潤滑剤をつけると、滑りがよくなり、挿 入時の刺激が軽減されます。チューブの先端から5cmほどの所を持って、静かに鼻または口から決まった長さまで挿入していき ます。挿入するこつとして、挿入角度は顔面とチューブがほぼ直角になるように真下に向かっていれることです【写真1】。
【写真1】 【図】
どうしても初めは上に向かっていれたがる傾向にありますが、【図】のよ うな解剖学的特徴を理解して挿入します。挿入後数cmく らいで咽頭部に達し、抵抗を感じますが、嚥下を促しながらゆっくりと進めていきます。嚥下を認める児に挿入する際は,嚥下時喉頭が上がった瞬間を見計らい チューブを挿入する。喉頭が下がってしまってからでは遅いので,再度嚥下を促すとよいでしょう.挿入時に咽頭部で抵抗を感じることがあり、カテーテルがと ぐろを巻くことや口からでることがあるので注意します。
挿入するとき、素早く入れるほうが児の苦痛が最小限になると考え、ス ピードが第一優先と考えがちですが、咽頭部を通過するときは誰もが苦しく、嘔吐反射が誘発されます。そのため、できる限り嚥下のタイミングに合わせ、表情 を見ながら挿入してあげるよう心がけましょう。
チューブが誤って気管に入ってしまうと、咳嗽反射や呼吸苦、チアノーゼ が認められることがあります。このような場合には、ただちに挿入を中止し、呼吸を中心とした全身状態の観察を行う必要があります。誤嚥性肺炎に進行しない か、十分注意して観察を続けましょう。
【注】経鼻栄養 チューブの交換が困難な症例に対し、ガイドワイヤーを用いた交換法がありますが、一般的なものとはいえず、胃瘻を設置するまでの避難策と考えてください。

9.チューブが胃の中に入っている か確認する(最重要)

①胃内容をシリンジで吸引してみ て、内容物がひけることを確認する。
②右下肺野・左下肺野・心窩部の3箇所に聴診器をあて,それぞれの部位でシリンジ5ml程度(新生児であれば1~2ml)の空気を勢いよく入れて、水泡音の最強点が心窩部であるかを確認す る。
③エックス線不透過性チューブを 用いている場合、エックス線撮影によりチューブ先端が適正な位置にあるかを確認することが最も確実である。
④CO2検出器を 用い、食道・気管分岐部を超え胃内に達するまで、体内のCO2が検出されないことを確認する。
⑤pH試験紙を用 いる。確実に胃の内容物であるためにはpH5.5以下の酸性であることの証明が必要です。(アドバンテックPP®)
挿入後、上記の方法複数を用いて、胃内にチューブ先端が留置されている ことが確認できない場合は、挿入した長さ、口の中でとぐろをまいていないかを確認し、再挿入を行います。
チューブが胃に入っていることの確認、これが経腸栄養実施の最大の注意 点です。同じ位置にテープで固定されているようにみえても、いつのまにか引っ張られて、ずれていることがあります。また、えずいた拍子にチューブがもど り、口のなかでとぐろを巻いていることもあります。
確 認の方法はひとりひとり異なります。それは胃の位置や形が一人ひとり異なりますし、チューブの深さが同じでも先端の位置が異なるからです。決してひとつだ けの確認ではなく、複数の方法で確認する癖をつけてください。無事挿入された場合は、挿入されたチューブのサイズ、挿入の長さをわかりやすく表示しておく ことをおすすめします。
【注】重症児で は体の変形やねじれがあり、確認のために空気をいれた音が通常と異なる位置で聴取されることがあります。また、咽頭喘鳴が聞こえ、胃からの水泡音と区別し にくいこともあります。

10.チューブを固定する

固定方法には、α留めとΩ留めがある(経鼻、経口同様)。

【写真2】α留め:チューブの周りをたすきがけに1回転する留め方-チューブとテー プの接着面積が広いためしっかりと固定できるが、皮膚トラブルが多い、見栄えがよくないという欠点がある。

【写真3】Ω留め:チューブとテープの接着面積が狭く固定が不十分となりやすいが、 皮膚トラブルが少ないという利点がある。

体 動が激しい場合や、1カ所の固定が不安定な場合は、頬部にもう1カ所固定を増やすこともあります。チューブが尾翼部を圧迫すると、びらんや潰瘍ができる可 能性があるため注意が必要です。チューブが抜けてきたときに気づけるように鼻部に印をつけておいたほうがよいでしょう。固定のテープの種類やサイズもただ 頑丈に留めるだけでなく、見た目のかわいらしさを損なわないように、安全性を確保できるようになど総合的に考えて固定法を模索する必要があります。

11.注入前の準備

注入の前に、鼻からラインをたどって、栄養剤のボトルまできちんと接 続、確認を行います。点滴、中心静脈栄養を行っているような児が特に注意すべきで、胃管と点滴にはビニールテープなどを貼って色分けしておくと事故防止に 役立ちます【写真4】。

【写真4】
注入するものは、母乳もしくは人工乳と考えてよいですが、年齢とともに 内容は変更されていくと思われます。注入物を常温から人肌程度に温めます。
注射器でチューブから胃内容を引きます。引きやすい姿勢をとってくださ い。胃内容をひいたら、空気をいれて再度聴診器で音を確認します。これらが整っていよいよ注入開始となります。

【注入前の確認 事項】
①再度、チューブが胃内に入って いるか。
②注入するものを加熱する場合 は、温度が高すぎないか。
③注入するものとチューブが間違 いなく接続されているか。

【注】胃内容が 赤いとき(出血)、緑色のとき(腸閉塞の疑い)、前回いれた栄養剤や水がたくさんひけるときは、普段の状況と照らし合わせ、医師に相談するかを決めてくだ さい。
注入時の事故 は、チューブ挿入や交換後、初回注入時に発生が多いため、注入前の挿入位置確認は厳重にしましょう。

12.注入する

注入時間は20-30分くらいで終了するのが適当ですが、子どもの状態に応じ調節します。
注入速度の調節 はローラークレンメで行います。注入セットの1滴は1/15ml(テルモや東レなど)または、1/19ml(JMS)です。1分間に60滴=3~4mlとすれば、1時間で200~240mlとなります。多少の誤差がありますし、途中で速さが変わってしまうこと もありますので注意しましょう。
重症児ではしばしば胃食道逆流症が認められることを考え、可能な限り上 体挙上や腹臥位などの姿勢を考慮し、筋緊張が強くなりにくい姿勢をとらせましょう。
胃食道逆流が強 い児は、ベッドをギャッジアップして、少し上半身を起こす姿勢がいいかと思いますが、これも人それぞれです。
食べるとき大事なことは、唾液などの消化液がでて、お腹がよく動くこと です。そのためには、食べる雰囲気を作り楽しくみんなで食べるように心がけましょう。
喘鳴や嘔吐、下痢などを起こしやすい児には、ゆっくり時間をかけて注入 することが多く、1時間から1時間半程度かけて注入することもあります。しかし、長い時間をかけて注入する場合には雑菌による注入物の汚染に十分注意する 必要があります。
注入前後での呼 吸音・チアノーゼの観察に加え、パルスオキシメーターによる動脈血酸素飽和度の把握も異常の早期発見に役立ちます。注入後、時間を経た後に誤嚥症状が出現 することもあり、注入直後だけではなく、その後も継続的な観察が必要となります。
在宅で夜間に注 入する場合、注入開始後の観察が不十分になることも多くこのことは注意喚起が必要です。

13.注入終了後に行うこと

チューブ内に白湯(さゆ)を通してチューブ内を清潔に保ちます。接続部 のキャップを確実に閉め、逆流を防止します。

14.まとめ

経管栄養チューブの管理には挿入前、挿入時、留置中、注入時、注入後と それぞれのプロセスと特徴があり、しっかりとした確認手順が必要です。
経鼻カテーテル からの栄養注入は、看護師や保護者が日常的に行っている処置のひとつです。しかし、チューブ先端の確認、誤注入の鑑別はわかりにくく、いったん誤注入が生 じると身体への侵襲が大きく重篤な結果につながることがあります。
もう一度ポイン トです。
①チューブ先端の位置確認が経腸 栄養手順において最も重要な要素であり、確認のためには複数の手技を用いることが大切です。
②手順の確認方法と不明確の場合 の対応方法も明確に決めておくこと大切です。
③誤注入を早期に発見するための 注入開始後の観察・環境の整備が重要です。