家族への救急蘇生法の指導

(文責: 漆原 康子 埼玉医大総合医療センター小児科助教)

保護者に指導する際の注意点

  • なぜ蘇生の練習をしなくてはいけないのか、という目的をお話する。
  • 項目は必要最小限(胸骨圧迫、バギング、胸部の聴診)に特化して指導していく。
  • 1枚の紙で分かりやすくポイントのみを記載して、まず保護者と一緒に勉強する。
  • 次に、人形を使用しながら胸骨圧迫の練習を行う。胸骨圧迫の速さは100回/分である。アンパンマンマーチと同じリズムなので、この曲をBGMに流しながら楽しく練習すると良い。
  • 保護者を最大限に誉めながら、徐々に習得させていく。
  • 練習の当初は、さまざまな救急蘇生の事項について一度に説明すると保護者はパニックになりやすい。そのため、同じ内容の練習メニューを何度も行い、保護者が慣れて飽きてきた頃に、次の練習メニューに入るのが良い。
  • 保護者の心理としては、緊急時に自分達が十分に対応できるか不安に思い、自分達の蘇生の可否によって児の生命が決まってしまうと感じていることが多い。そのため、飽きるほどに練習を積んだほうが良い。
  • 人形と患児が重なって見えて、練習が辛く感じることがある。そのような場合は無理せず練習を中止し、後日に再開する。
  • 普段の会話の中で少しずつ、気管切開や人工呼吸器に関連するトラブルについてお話しておく。その後、救急蘇生の練習の際に、その場面を想定して練習するとよい。前置きなく突然に救急蘇生の練習を始めると、保護者は不安になりやすい。
  • 心肺停止が疑われる場合は、胸骨圧迫をしながらバギングを行うことになる。医療従事者が2人いる場合は胸骨圧迫15:バギング2の割合で蘇生を行えばよいが、一般人向けのBLS講習では混乱を避ける目的で、30:2を推奨している。ここでは、30:2で家族を指導していくことが妥当と思われる。

気管切開+人工呼吸管理の重症児に対する呼吸補助

①気管カニューレ
  • どこに入っているのか→先端は気管内に入っている
  • カニューレがあることで呼吸できている

(気管切開している児は、基本的に口鼻を呼吸に利用していない)

②バギングの仕方についての指導
  • アンビューバッグを購入していただく(加熱滅菌対応でなければ1万円未満)。
  • アンビューバッグは自己膨張式バッグであること。
  • 圧のかけ方は、児の胸の上がりを見ながら行う。
  • 1分間に20回。


③呼吸器について
  • 具体的な設定の説明は不要。
  • 吸気→肺→呼気という空気の流れをまず説明する。
呼吸器→吸気の回路→加湿器→吸気の回路→(カニューレを通じて)器官・肺→呼気の回路
  • 呼吸器回路の組み立て方について写真入りの解説を渡し、説明する。
    呼吸回路のトラブル時は自宅で呼吸回路を交換する必要があるので、回路の組み立てを練習しておく。(入院中に2-3回は練習必要)


④SpO2低下や顔色不良時の対応について
  • まずバギングに切り替えることが大事。
  • バギングに変更し胸の上がりとSpO2の上昇をチェックをする。
  • 分泌物の気道雑音があれば吸引をする。
  • カニューレがしっかり入っているか確認する。ガーゼ下で抜けていないか注意する。カニューレが抜けていれば、すぐにカニューレを入れる。このような事態のために、入院中に何度かカニューレ交換の練習が必要である。
  • 人工呼吸器にテストラングをつけてしっかり膨らむかを確認する。
  • テストラングが膨らまず、回路不良が疑われれば、回路交換を行う。


⑤患者の移動時の注意
  • バギングしながら患者を移動する時は、保護者がパニック状態になることが多いので、手順を紙に書いて事前に渡しておくとよい。特に、気切チューブが緩んだり外れたりしないよう、細心の注意を払う。
  • 移動時は、バギング担当者と患児を運ぶ人と役割分担をしっかりすることが大事。
  • 児に人工呼吸器を装着する前に、テストラングをつけてしっかり膨らんでいることを確認する。また、児に装着した後も必ず胸の上がりを確認することを忘れないようにする。


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